弊所では毎週のように侵害警告の相談が入ります。
ネットで商品を販売している事業者が特許や意匠の侵害警告を受けたので、どうしょうという相談です。
中国で製造された商品を日本に輸入して販売する事業者に多い事例。
特許権侵害警告では、貴社の商品の販売は特許侵害に該当するという結論だけが記載されているパターンが9割以上です。
どうしてイ号(警告対象の商品をいう。以下同じ。)が特許侵害に該当すると考えたのか、理由は何も記載されていません。
しかも回答期限が7日以内という非常識ぶりの警告書もある。
特許侵害警告の回答期限は、14日以内が相場ですよ。
仮に7日以内が期限としても、
『弁理士と相談して検討のうえ、回答します』とだけ記載して、回答するのがよろしい。
特許侵害の理由が記載されていない場合には、
「特許権侵害の立証責任は特許権者側にあるところ、特許請求の範囲の発明特定事項とイ号の構成との関係を明らかにされたい」
と記載して、特許権者側の回答を待つのが一案です。
特許侵害警告を受けた側が非侵害を立証する必要はありません。
逆に言うと、特許侵害警告を受けた場合には、上記した侵害警告の不備を指摘して、ダラダラ先に延ばすことが賢明です。
だって、侵害警告に記載すべき事が記載されていないのだから、特許権者又はその代理人のミスですよ。
侵害警告を受けた場合、侵害警告書に記載不備があれば、ダラダラして先へ先へ延ばしましょう。
ところで、特許侵害に該当する否かは、イ号が特許発明の技術的範囲に属する必要がある。
この判断は素人には無理なので、特許侵害訴訟の代理人又は補佐人の経験豊富な弁理士に相談してください。
弁理士が侵害鑑定を行うこともできますし、さらには特許庁に判定請求することもできます。
特許庁の判定請求とは、イ号が特許発明の技術的範囲に属するか否かを判定してくれる手続です。特許侵害訴訟ではありません。判定書を得るのが目的です。
判定書のメリット
弁理士による侵害鑑定と比較して中立的な立場で判定書が作成されるため、相手方に対しても心理面に効く有効な効果がある。判定書には法的拘束力こそありませんが、特許庁の審判部が作成したものですから裁判所でも尊重される。
判定請求手続は、訴状又は答弁書・準備書面に準じた記載が必要なので、これらの経験がある弁理士に依頼することが好ましいといえます。
さて、特許庁に判定請求されると、審判部に係属して、審判情報として、特許庁の特許情報プラットフォームに履歴と結果が掲載されます。
判定請求時から判定書作成までの一般的な期間は6ヵ月~8か月。
相手方から実験する等の理由で答弁書期限の延長があれば、特許庁は柔軟に認めているため、期間が延びます。
判定請求に関する手続きと判定書の内容は経過情報として掲載されるため、誰でも内容を確認することができるのです。
最後の判定書には、
「イ号が特許発明の請求項1の技術的範囲に属する/属しない」の結論がしっかり記載されています。
一部の弁護士が特許庁が作成した判定書の内容を軽視することがあるかもしれませんが、裁判所的にはそんなことありません。
実際の特許侵害訴訟でも、訴訟には特許庁又は実務関係者の調査官が担当しており、裁判官を補佐していますからね。
彼らの侵害成立へのロジックは、判定書に記載されている理由に通じるものです。
侵害警告がきたら特許庁に判定請求を検討する。
ただし、明らかに特許侵害に該当する場合には、判定請求すると特許侵害を肯定する結論の判定書が作成されるため、事例ごとに弁理士と相談してください。